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ワインバトラー・ハーヴィ

第12回:「その汚い時計を外しなさい」

東京のシティーホテルでシェフソムリエをしていた頃、フランスの3つ星シェフのお店が東京の青山表参道辺りに2005年にオープンすることとなり、ホテルの親会社がタイアップした関係で、そのお店がオープンする前にうちのホテルのレストランで何故かプレオープン、その3つ星シェフ○○○○ウイークが開催されることになりました。ミシュランの星で3つ星となると、相当、話題性は高いので、日本初上陸ということもあって、色々な意味で大変でした。

私は、そのシェフが未だ2つ星だった頃、ホテル●●銀座で、フェアーを行ったことがあり、その頃の先輩からあまり良い印象が無かったことを伺っていましたので、何だかいい気持ちにはなれませんでしたが、それとは裏腹に、前評判が異様な盛り上がりを見せていましたので、皆さんあまり良く調べないうちにどんどん話だけ進んで行きました。私が聞いた話では、このシェフは以前にも3つ星を獲得しておりましたが、一度破産し、3つ星を返上した後、再びパリで3つ星に帰り咲いた経緯がありました。

こういう時は、仲介に入る方達が相当、気を遣って連絡を密にして頂かないと、後から、言った、言わない、聞いた、聞いてないということがあり非常に混乱します。

もちろん混乱するのは、現場スタッフであります。その時の彼のギャラは一日100万円でした。6日間開催されるので、当然、600万円。しかも、彼と彼の奥様はファーストクラスで往復とういう贅沢三昧でした。いくら協賛があるとは言え、こんなバカげたフェアーをしているようでは大変なことになると思いませんか?誰もが分かっていながら、どんどん話は進みます。満席で50名そこそこの席数で1回転しかしないのですから、料理で3万円くらいとっても、彼が連れてくるスタッフの滞在費諸々含め、大赤字だったに違いありません。

蓋を明けてみると、やはり、平日、料理の値段の高さ等、色々な理由からお客様は中々集められません。私達のお店の常連、レギュラーカスタマーにお声掛けしても殆ど来て頂けませんでした。さぁ、大変!そんなとき、どうやって、空席を埋めると思いますか?店舗のマネージャーはお店の常連に声を掛けて来て頂けないと、はっきり言ってもうそれで終わりです。コックさんとソムリエは、取引先業者と懇意にしている関係で、その取引先業者に連絡をして、お願いしまくります。

後は、ホテル総支配人が関係ホテルに連絡して何とかお客様として人を集めます。最後の手段は同業他社に(友人の伝手)で、電話かダイレクトメールをします。

これだけやって、何とか体面だけは繕う人数を集めるのです。しかし、ここからがいけません。それは、本当に無理押しで来てもらうのですから、ワインはサービスしてやってくれとかいう話になって、調理場からワインの差し入れや、支配人からのオンザハウスでワインが只でサービスされます。(オンザハウスとは、店からの無料サービスのことです。)

また、さらにこのシェフの常連だから、あなたのお店に置いてあるプアーなワインリストからワインは選べないので、持ち込み料を払うから、ワインの持ち込みを許可しろ!なんて言うゲストまでいて、高価なワインを持ち込んで、そのゲストは悦に浸りながら飲食します。売上が上がらなくって当たり前なのです。

少し話が逸れましたが、そういう意味で、す~ごい世界なのです。さて、色々と準備して、やっとこシェフが来日されて、料理説明、サービス方法の確認を終えた後、最後に一言。「明日から私のフェアーが始まりますが、来店されるゲストは私の美しい、又美味しい料理を観て味わいに来るのですから、あなた方、サービスに従事する方達のその汚い腕時計は外しなさい!」ということでした。

「汚い時計?」「外すのが、あたりまえだ!」の様に言われ、これを聞いたスタッフは皆さん唖然としました。私達が勤務していたホテルは東京のど真ん中にあり、ゲストも色々な意味でグレードが高い方が多く食事や滞在に来られたので、私達も、それなりのものを身に着けてはいました。

料飲支配人はブルガリ、レストランマネージャーはオメガ、アシスタントはタグホイヤー、私もロンジンの時計でした。私は、このフェアーが始まっても、立場上、他のレストラン(中華、鉄板焼き、和食、寿司)にもゲストの要望があれば行かなくては行けませんし、時計は必需品なので外しませんでした。(但し見つかったときは、散々、怒られましたが・・・)

シェフは料理が一通り出し終わると、テーブル回り(挨拶)を始めてくれましたが、日本からの彼の常連のゲストにはベッタリついて会話し、一見さんのように判断した場合は、挨拶もそこそこですぐに違うテーブルに行きました。大概のゲストは記念写真を撮ったりしてくれますが、気に入ったゲストくらいにしか行って頂けない様子でした。

営業が終了すると奥様とゲストの席を陣取り、堂々と食事とワインを楽しんでいました。そう、シェフの姿を少しだけ記しますと、真っ白なバサバサの白髪頭から繋がった顎髭、コック帽を被らず威風堂々とした出で立ち、皆さん(回りの方達は)、カリスマシェフという目でみていたようですが、私の様なちょっと古い人間には怪しい宗教家の様にしか見えませんでした。私は、その時、「あ~このシェフ、これから日本にお店を出したら、そんなに長くは続かないな!」と思いました。案の定、数年でそのお店は潰れましたが、その後、新しいホテルとの上手な契約で何とかやっているようです。

少し話はそれますが、最近は、コック帽を被らないシェフが増えた様に思います。何だか昔のコックさんの方がそういった意味では清潔感があったように思います。コック帽はここ15~20年位で、リネン費(洗濯代)がバカにならないということで、布製から、使い捨ての紙製が多くなったのはご存じでしょうか?何だか悲しいですが、そういった影響があるのかも知れませんね。

また、昔からのことなのですが、コックさん、特にシェフになると、決まって写真は腕を組んで写します。これは、なんなんでしょうか?ソムリエは腕なんか組んで写真を撮ったら、業界からも非難轟々ですけど・・・。(笑)

さて、話を戻しますと、腕時計の件もそうですが、「人それぞれ頭の中に違う基準を持っている。」ということと「それぞれの『あたりまえ』が違うので問題が起きる。」ということですね。価値観の基準が違って当たり前ですが、どちらが「正しい、正しくない」ということを考える前に、「あの人の頭の中のイメージはこうで、あの人はこう。そして自分はこう。」と頭の中を対比してみると整理しやすいのではないでしょうか?

ただ単に話だけ聞くと、その「あたりまえ」は明らかに自己中心的な小学生レベルの話に留まってしまう。その帰属するグループの「あたりまえ」が個々に冷静な人物評価をすることで、延いては人間的な気遣いとして扱われれば全体のポテンシャルは物凄く引き上げられ、更には来店されるゲストにも伝わり繁盛店の原点になるのではないのか?と思われるのです。皆さんは如何お考えでしょうか?

By ハーヴィ

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