1. HOME
  2. ブログ
  3. ワインバトラー・ハーヴィ
  4. 第9回:「粗相(そそう)」

BLOG

ブログ

ワインバトラー・ハーヴィ

第9回:「粗相(そそう)」

第9回:「粗相(そそう)」

レストランなどで「粗相」というのは、いわゆるサービス中にゲストの衣服や持ち物にワインを溢したり、また、ぶつかって何かを掛けてしまったりすることを言うので、まぁ、業界用語では「ぶっかけ」などと呼ばれています。

幸い、私の30年間のサービス経験では「ぶっかけ」はありませんでしたが、多くの事例を見てきました。そう、30年前の出来事です。

未だ入社一年目だった私はあるホテルのダイニングでウエーターをしていました。そのレストランはホテルの最上階にあり、半観光地的要素も加わって、いつも満席でした。

また、サービスも古かったので、料理は今でこそ皿盛りで出てきますが、すべてがゲルドンのサービスでした。ゲルドンのサービスというのは、主に、料理はプラッターに盛られ、サービスは、最終的にゲストのテーブルの前にワゴンを置いて、そこで、黒服と呼ばれるタキシードを着たサービスマンが盛り付けを完成させます。

演出効果があってかっこいいのですが、一部、料理が冷めたりすることや、料理人がデシャップで手を使って盛った方が綺麗だということから、今は殆どやられないと思います。やっても、ローストビーフのカッティングやクレープシュゼット等の時は、ゲストのテーブルの脇でやるかとは思います。

業界用語がわからないといけませんのでご説明しますが、「デシャップ」とは、調理場で料理を仕上げて、ウエーターに暖かい料理や冷たい料理を受け渡す場所のことです。盛られた料理皿が完成して上がってくるところなので、ディッシュ・アップするところということで、略して「デシャップ」と言うようになりました。

皿盛りの料理も一応、ゲストの前にゲルドン(ワゴンという方が分かりやすいですね)を寄せていったんそこに下してからサービスしていました。その中で、オニオングラタンスープは料理場でグツグツ煮立たせ、そこに薄いバケットを入れてさらにサラマンダーで焼いたアツアツをワゴンまでウエーターが運び、ワゴンに乗せてゲストの食卓へ提供。それから蓋を開けて、パルメザンチーズをお好みの量だけ振り掛けて提供していました。

昔は、先ほどにもありましたように、タキシードを着た黒服がオーダーをとり、モンキーコート又はベストを着たウエーターが料理を運び、黒服がワゴンの上で料理を仕上げ、ウエーターと一緒にゲストに提供していました。今では、ほとんど見かけないスタイルです。

このサービスの仕方を、シェフドラン(黒服)とコミドラン(一般ウエーター)がやりますのでシェフ・コミスタイルと言いました。

勤務のシフトにもよりますが、レストランをだいたい3分割くらいにして、3人の黒服がシェフドランをやります。その3人がウエーターを指名してコミドランを決めます。人間のやることですから、仕事の仕方や速さには当然、違いが出てきます。

ある日のことです。多忙を極めた金曜日のディナー時にそれは起こりました。私はちょうど、調理場へ料理を取りに行くところでした。すると、レストラン(当時は120席)の中央あたりで「ギャッ!」という異様な女性の声がしました。

聞きなれない声でしたし、私も忙しかったので、気にしないで料理場へ行き、料理をゲストに運んでいきましたところ、どうやら先輩のウエーターがゲストの背後から、アツアツのオニオングラタンをかけてしまったようです。

椅子は、当時40万円する背もたれがしっかりしたものでしたので、ちょうどゲストの背中と背もたれの間に落ちてしまったわけであります。

普通、「熱い」とか「キャー」とか、そんな言葉で叫ぶのでしょうが、余程の熱さであったことと、突然の熱湯掛けとなってしまったので「ギャッ!」ということになったのだと思います。

そしてその女性は、WCで、ラウンジにいた女性スタッフによる応急処置後、救急車で搬送されました。女性と同席していた男性は、その日、一緒に部屋に宿泊しており、部屋にも伺ったのですが、部屋には誰もいませんでした。

2日後の夕方、女性と女性のお父様がホテルにご来館されて、お父様の方から火傷(第2度状態)の慰謝料として300万円の要求がありました。その時のホテルの総支配人は優れた人物で、短い時間の中ですべてを調べあげておりました。

女性は既婚者であり、ご主人は当日出張をしており、食事をし、ホテルにご宿泊予定であった方(宿泊当日、ホテルかた居なくなった方)も既婚であり、ともに浮気相手であったことまで調べ上げていました。

しかしながら、粗相をしたのはこちらのミスであることは事実なので、慰謝料は払うと言いました。ただ、300万円を支払う代わりに、事の顛末を女性のご主人、また同席男性の奥様にお知らせする予定である旨、話しましたところ、事態の報告をしない代わりに300万円の慰謝料は200万円減額され、100万円で示談となりました。

もちろん、慰謝料は事故処理で保険対応となりました。街のレストランでは、もしかしたらこのような保険に入っていない場合もありますから、いざというときの保険は入っていた方がいいかも知れませんね。女性も「危ない火遊びで火傷を負った」訳で、悪いことは出来ませんね!等と思いつつ、逃げた男性も意気地がないなとも思いました。

一方的にレストラン側が悪い粗相でもこんな場合もあるのですね。勉強?になった経験でした。

さて、この頃、サービスを現場で実体験しながら、一方ではワインの勉強を始めました。その頃は、日本ソムリエ協会を立ち上げた浅田勝美さんの著書『ワインの知識とサービス』という本とフランス食品振興会(SOPEXA)から出ている『フランスワイン』という本しかありませんでした。

本のことはまた次回記しますが、ワインの勉強は地理の勉強に似たところがあり、地理が不得意な私は苦労しました。

現場ではワインに精通した上司がいて、アイドルタイム(休憩時間)に良くワインのことで相談に乗って頂きましたが、なにせ、レベルが違いますので、言われていることが良くは理解できなかったのが正直なところです。

しかし、料理とワインの組み合わせについては良く理解でき、この時代に基本が身についた第一段階であったと懐古の念をもって振り返ることがあります。

もう30年も前ですが、その上司が簡単に説明してくれました。「味が強い料理にはコクのあるワイン。淡い味わいならば、軽快で飲みやすいワイン。食材が仕入れられた時や料理に地方名が入っているならば、その地方のワインに合わせるのだよ」と。

「誰か質問はある?」との問いに、当時、生意気だった私はこう質問しました。「ワインリストの中に日本のワインがありますが、例えばこの日本の赤ワインは今、教えて頂いた中にはあまり当てはまらないと思うのですが、どんな料理にどうやって説明して合わせるのか教えて下さい」と。

当然、答えに窮すると思っていたのとは裏腹に、すぐに次のように答えて頂きました。「この日本のワインはカベルネソーヴィニヨンが主体で出来ています。すなわち味云々よりも、それを鑑みると、柔らかい味とは言え、ボルドータイプと判断できます。したがって、ボルドーをお勧めするニュアンスで、日本のボルドータイプを目指したワイン造りをした味と説明すれば良いのです」とあっさり答えて頂けました。

この方はその後、会社を辞めて独立しますが、今もワイン業界で活躍されていると聞きました。当時、ワインを売ることは出来ても本当の知識を有する方は少なかったように思う中で、数少ない本物のソムリエとの初めての出会いでもありました。

by ハーヴィ

 

 

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


関連記事